自由とボインの国
先月のこと。
「ちょっとちょっと野比君。」
「なんですか。」
「なんだと思う?」
「何かわかりませんが、嫌な予感だけはします。」
「うむ。ご名答。そういう訳で、ちょっと来週からアメリカ行ってくれる?」
という、あまりにも唐突で、あまりにもライトなノリで告げられた海外出張。
もちろん僕の返事は二つ返事で。
「NO。」
「よろしく。」
「NOOOOOOOOOOOOOO!」
こうして、国内にいながら英語が通じずに海外出張が決まり、
アメリカはカリフォルニアまで行って来ました。
現地について分かったこと。
うむ。何もない。
広がる荒野、地平線。
なんという空の青さ。
『空はね、見る人の心を表すんだよ』
というのはありがちな慣用句だけど、
なんちゅーかここまで青いと不安になるわ。
あぁ、そうか不安なのか今僕はそうだね。と再認識。
ついた空港は田舎で、人気もまばら。
もちろん出迎えなんてなし。
思い出される国内での先輩とのやり取り。
「何を楽しみに行ったらいいんですかね。」
「あっちなんてそらお前、本場のボインちゃんだらけやで。」
「マジっすか。」
「もうウジャウジャいて困るくらいおるわ」
「じゃあ行きます。」
んでコレ。
牛かよ。ボインちゃんて。
騙された。
全力で騙された。
しかしとき既に遅し。もうアメリカ来ちゃったよね。どうすんの。
しかしほんまにウジャウジャおるな。何コレ。
まぁそうは言っても仕方が無いので、
とりあえず移動しようと思って現地タクシーを捕まえて〇〇までよろしくと言葉少なにお願いしたら。
「お前英語下手くそだなぁーHAHAHA」
と直球で僕のハートをブラッディスクライド。
ハハハ。
ファック!!
ちょっと運ちゃんワシ客やぞ。
やっぱアメリカ怖い。色々怖い。
それでもまぁ一応これでも端くれとはいえギリギリ社会人ですから。
仕事の方はまぁなんとなく、それとなく、ハローとバイバイとサンキュー、あとアヌスとかなんとか
言ってたらそれなりにボロボロのボロ雑巾の様になりながらも片付いて。
なんやかんやで予定の帰国日の一日前。
現地の人との会話の中で。
「日本にいたときに先輩にボインのチャンネーがいっぱいいるって聞いてきたんですが、牛でした。」
「じゃあ、帰る前にロサンゼルスよって帰る?」
「マジっすか?ボインは?」
「人だよ」
やっぱアメリカ来てよかった。
ありがとう、オバマ大統領。
というテンションの高ぶりで一人ワクワクしてるところに、日本からの国際電話。
――着信:〇〇課長――
「・・・はい。」
「あ、もしもし。お疲れさま。」
「なんでしょう。」
「ゴメン、ちょっと今からさ、別のお客さんのところに行ってください。」
「それはもしかして。」
「帰るのもうちょっと待って。」
「NO。」
「フライトとホテルのキャンセル、それから新しい寝床の確保をお忘れなく。」
「NOOOOOOOOO!」
ねぇなんでNOという英語通じない。ドウシテ。
という現地の人の気持ちが少し分かった気がしたと同時に遠ざかるボインと日本の地。
当然行き先が変わったのででボインを拝む機会もなくなり。
追加された仕事でもボロボロになりながら枕はほんのり涙味。しょっぱいね。
拝啓 母さん、元気ですか。
僕は元気です。最近知りましたが、アメリカ人はほんとステーキしか食べないんです。
へへ、そらワキも臭くなりますよね。匂いが目にしみて、なんだか涙が出てきます。
ワキが臭くなる前に日本に帰りたいものです。
そんなセンチメンタルレターでもしたためて、そろそろ私ステーキ限界!もう限界なの!!
と狂いながら日本刀片手にステーキ屋を襲撃しようかと思ってた矢先。
唐突に仕事がトントンと終わり。
あまりに唐突だったので、結局ボインの片鱗すら感じさせてもらえないままそのまま帰国となりました。あれれ。
帰るときってのは案外あっけない。
いやはや。しかしまぁ何事も経験と言いますか。
色々といい経験にもなって勉強にもなりました。
アメリカってやっぱ広いし、凄いなぁって。もう二度と行きたくないなぁってシミジミ。
まぁやっぱ日本がいいです。
お茶が美味しい。
ボインもちゃんと人だし。
もうじき春が来ますね。
気温も気候もしばらく不安定ですが、どうぞ皆さんご自愛くださいませませ。
それでは。
【おまけ】
現地では桜の様な花が満開で。
これ何ぞ、と聞くとアーモンドらしい。綺麗な花だこと。